テキサス自宅待機日記①(3月11日〜20日)(ヨシオ カサヤカ)


内容について

  • 1)普段は日記をつけていないけど、LAに住んでいる友人のブログを読んで触発され、私も今後のために記録しておこうと思って書き始めた。


  • 2)記録をつけ始めたのは、上記のブログを読んでからなので大体3月23日頃から。その頃から、その日の出来事の記録と同時に、さかのぼって過去1週間の出来事を思い出して書いていた。なので、最初は、新しい日付がページの頭に、古い日付が後ろにある形だったのだが、読みづらいので全部書いたあとで日付順に並べ替えた。
  • 3)ここに書いてある内容は一個人の主観なので、米国の中でも全く異なる状況の方もいると思う。

3月11日(水)

 WHOによるCovd-19のパンデミック宣言。

3月12日(木)

 夜、かゆみ止めの薬を買いにスーパーに行く。トイレットペーパーとキッチンタオルの棚をちらっと覗くと、商品が何もない。先週買い物に来たときは普通だったのに、パンデミック宣言が出た影響だろうか、と思う。

3月13日(金)

 早朝、大学からメールが入った。「今日から大学は休校、アドミニストレーションオフィスも閉鎖」とのことだった。メールを見たあと、目が冴えて眠れなくなってしまったので、ネットでローカルニュースを見ていると、うちの市で、ついに2人Covd-19の感染者が出たという速報があった。この1週間の間に、来週からの春休みを3月末まで延長する、という告知が既に大学から出ていたけれど、この地域で実際に感染者が出たことで春休みを待たず今日から休校になったのだ。この日、米国連邦政府の緊急事態宣言が出る。

3月14日(土)

 バイト先に行くと、後輩が米の袋を抱えていた。シフトが始まる前に隣のアジア系スーパーで買ったらしい。州内最大手の某スーパーチェーンでは米は売り切れだったという。隣のスーパーも、米は一人一袋までの制限がある、とのことだった。ちょうど、うちの米がなくなりそうなころに、タイミングが悪い。金曜日はバイトに入っていないので状況を知らなかったが、隣のスーパーは昨日は大混雑でレジは行列だったらしい。

3月15日(日)

 バイトのシフトが始まる前に、韓国系大手スーパーに米を買いに行く。思ったより混んでいなかったし、想像していたような殺気立った雰囲気もなかった。米もまだあったが、いつも買っていた銘柄はない。しょうがないので、初めて見る銘柄の米を買う。

3月16日(月)

 幸い、大学の図書館は引き続き開館しているので、大学院のレポートを書きに行く。夜、新しく買った米を洗うと、黒いものが見える。コクゾウムシだ。昔、さくらももこのエッセイに出てきたので覚えている。「米に虫がいるんだけど」と一応夫に報告すると、「でも、米を食べてるだけだしもう死んでるから大丈夫」というようなことを言われる。
 まあ確かにそうだ。虫がいるのは良い気持ちはしないが、そのために米を捨てるなどもったいないことはできないので、いつもより注意深く米を洗って乗り切ることにする。いつもの銘柄の米が食べたい。

3月17日(火)

 今日は図書館に行かず、家の掃除と、徒歩圏内にあるスーパーへ買い出しに行った。予想した通り、缶詰や乾物のコーナーは売り切れだったけど、なぜか卵も全くない。生鮮食品と朝食用のパン、お菓子を買って帰る。

3月18日(水)

  朝、バイト先の店長から、従業員全員に「3月21日から月末まで営業停止になります」という連絡が来た。今月の上旬の土日は、お客さんの入りはいつもと同じかそれ以上によくて、「うちのお店アジア系なのに、結構お客さん来てますね……。みんな、コロナウイルスあんまり気にしないんですかねー」とか言っていた。その次の土日は、少しお客さんが減り、「これだと営業時間短縮したほうがいいかもしれないですね」といったことを話しながら、アルコールで手を消毒しながら接客していたのだ。なんとなく、その時は大丈夫なような気がしていたけど、ついに来たか。


 作業をしに大学図書館に行く。家の近くのバス停から大学までの路線は、同じ時間だと毎日たいてい決まった人が運転している。ただ、今日は初めて見る女性の運転手さんだった。コロナウィルス対策によるバスのスケジュール変更が何か影響しているのかもしれない。乗ると、私以外に乗客がいない。もともと、私が乗る時間帯は結構すいているのだが、誰もいないのは初めてである。驚きを口にすると、運転手さんも、「クレイジーよね、でもオーバータイムが出るからいいけど」と言っていた。オーバータイムということは、彼女は臨時でシフトに入っていたのかもしれない。もう少し彼女と話したかったけど、会話して感染するかも、という不安を相手にあたえたくなったかったので黙っていた。

 普段なら、運転席に一番近い前方席に座って運転手さんと盛んに世間話をしている乗客がいて、なんとなはなしに聞こえてくる彼らの会話をぼーっと聞くのが常だったけど、今は誰もいない。


3月19日(木)

 今日も図書館に行く。昨日と同じ女性の運転手さんだった。そして誰も乗っていない。記録として、無人の車内の写真を撮る。降り際、運転手さんに「明日はもしかしたら運休かもしれないから、スケジュールをネットで確認してね。」と言われる。図書館は、今日も数人だが利用者がいる。誰とも会話したことはないが、勝手に連帯感を覚える。帰り際、キャンパス内の寮から荷物を引き払っている寮生たちを見る。今学期は春休み明けからオンライン授業に移行し、学校内の施設もほぼ閉鎖である。寮に住んでいた学生は、特別な事情がない限り、寮を退去して実家に帰るよう大学から指示があった。

3月20日(金)

  今日をもって、バイト先は3月末まで閉店である。もともと金曜はシフトに入っていないが、従業員割引で買おうと思いつつまだ買っていなかった本があったのを思い出し、客として急遽お店に行く。こんな日でも、お客さんは数人いた。「2mの社会的距離」をとるべく、なるべくカウンターにいる同僚に近づきすぎないよう注意しながら、挨拶し、韓国のグラフィックノベル「Grass」を購入。ついでに、ロッカーにあったエプロンを持って帰って洗濯することにした。近くにあるべーカリーがまだやっていたらテイクアウトしようかと思ったが、閉まっていた。まだ米国でこんなに騒ぎになる少し前、このお店で「20$分買ったらMサイズのコーヒー1杯無料」というキャンペーンがあり、つられてパンをたくさん買った。その時にもらったコーヒー無料券を使いたかったのだが、しょうがない。無料券の下に、2020年12月31日まで有効と書いてあるから、今年の年末までにはお店が営業再開することを願う。人生何が起きるかわからないから、こういうクーポンはすぐ使うべきだった。

 

(……3月21日に続く)



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