タンザニアの米どころ


 タンザニアでプロジェクトを実施する話が持ち上がった。

 私もチームメンバーとなっていたが、目当てにしていた資金が確保できず、この話はすぐになくなった。資金調達ができたところで、妊婦の私は現地に行くことはできないのだが、出張するメンバーにお買い物を頼もうと目論んでいたため、本当にがっかりした。タンザニアで何を買ってきて欲しかったかというと、タンザナイトでもティンガティンガでもなく、米である。

 タンザニアには、過去に2度出張したことがある。いずれも数週間の短い期間だが、太って帰国した。

 アフリカをよく知らない人からは、「アフリカでは子供が飢えているというのに、よく太れたものだ」と呆れられ、タンザニアをはじめ東アフリカ地域をよく知る人からは、「たいして美味しいものもないのに、どうやったら太れるのだ」と首を傾げられた。


 そんなことはない。

 タンザニアには美味しいものがたくさんある。

 そして、タンザニアの米は本当に美味しい。


 日本人の中には、他の国の米を食べたこともないのに、日本の米が世界で一番美味しいと信じている人が多くいる。しかし、インド人やパキスタン人はバスマティ米がうまいと思っているし、タイ人はジャスミンライスを好んで食べている。タンザニア人だってタンザニアの米が世界で一番美味しいと思っている。

 日本では現在、アミロペクチン(注:でんぷんの一種)含有量の多い、もっちりとした粘り気のある柔らかい米が主流である。それに比べ、バスマティ米やジャスミンライス等はアミロース含有量の多いパサパサとした食感の米である。この部分だけを比較して、日本の米はもちもちしていて美味しく、外国の米はパサパサで不味い、と評する人がいるが、こういう人はおそらく、「香り」を評価項目に入れていない。バスマティ米がなぜ国際市場で高い評価を受け、高級米として流通しているのかというと、その「香り」が評価されているからである。

 また、インディカ米はすべてパサパサだと思っている人がいるかもしれないが、インディカ米にも粘り気が強いものと弱いものがあり、多種多様である。もちろん、粘り気のない米のほうが食分化や好みに合う、という国や地域も多いので、日本で考えられているほど「パサパサ」は問題にはならないのだ。

 私はもともとあっさりした米が好きで、日本で栽培され流通している物なら、断然ササニシキ派だ。インディカ米もとても好きで、特に香り米が大好きだ。イギリスに留学していた頃には、バスマティ米を買って食べていた。チャーハンやカレー、卵かけご飯にして楽しみ、一度も日本の米が恋しいと思ったことはない。バスマティ米は卵かけご飯に最適なのだが、おそらく試したことのある人は少ないだろう。イギリスでは、国産の卵を選べば、サルモネラ菌の心配をせずに卵を生で食べることができる。当時はイギリスの卵が安全であることを知らなかったが、サルモネラ菌の存在も知らなかったため、そもそも何も心配していなかった。

 日本でも輸入食品店に行けばバスマティ米が手に入る。もし気が向いたら「バスマティ米卵かけご飯」を試して欲しい。この時、炊飯器を使わずに、ぜひ湯取り法にて調理していただきたい。


 タンザニアの米も、インディカの香り米である。あっさりした口当たりだが、握ろうと思えばおにぎりにできるくらいの粘り気があり、その点では日本人の好みにも合っているといえる。

 初めてタンザニアに行ったときには、タンザニアの米の美味しさに気がつかなかった。インディカの割には粘り気のある香り米という印象で、日本の米よりもあっさりした香り米を毎日食べられるだけで、私は幸せだった。

 タンザニアでは米に、肉、魚、豆等を煮込んだものをかけて食べる。食堂などで注文するときには、「米と魚」とか「米と豆」と言うと、大盛りの米と煮込みとを載せてくれる。基本的には、メインの具をトマト、玉ねぎ、水、塩で煮込んだもので、店によってはブイヨンやスパイス等が入っていることもあるが、大体どこも同じような味である。私はシンプルな味付けが好きなので、この煮込みスープがいつも同じ味であろうと、飽きることなく楽しむことができた。

 また、ピラウと呼ばれる炊き込みご飯もよく食べられていて、美味である。


 私がタンザニアの米に目覚めたのは、二度目にタンザニアを訪れたときである。この時、タンザニアの米どころ、南西部に位置するムベヤ州に行った。この時食べた米が最高に美味しかった。適度な粘り気、適度なさらさら感、そして素晴らしい香り。

 人生最高の米は、タンザニアのムベヤ州にあったのだ。なかでも、キエラ地区で栽培された米は本当に美味しかった。

 ムベヤ州は、米の名産地として知られており、タンザニアの新潟、キエラ地区は魚沼といったところである。産地がそのままブランドとなっており、タンザニアの最大都市ダルエスサラームでも、ムベヤ産、キエラ産の米は、他のものよりも高く売られている。

 私が入手したかったのは、このキエラの米である。

 キエラの米農家や米商社と話すと、米どころとしてタンザニア一(いち)の米を作っていることに、大きな誇りを持っていることが分かる。キエラの農家が誇りをもって作っているブランド米を、日本の人にも食べさせてあげたいと思う。日本がタンザニアから米を輸入する予定がないのが、残念である。

 そうなると個人的に入手するしかないのだが、次にチャンスが訪れるのはいつになるだろうか。またタンザニアでプロジェクトを実施する話が出たとき、私はこの仕事を続けているのだろうか。またいつか、タンザニアに行くことができるだろうか。いったいいつになるか、いまは何もわからない。

 ただ一つ確かなのは、もしタンザニアを訪れることがあれば、その時はまた、太って帰国するであろうということだ。

野田まりえ

沼ZINE

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