Have Rhodes Suitcase will travel


 世間では、韓国と北朝鮮が関係を修復したり、芸能人が猥褻事件などをおこしたりし騒がれているが、私は日々Rhodesピアノの修理に明け暮れている。 それというのも、先日Rhodes Suitcaseというエレクトリックピアノを一台購入したからだ。これで、4月に2台のRhodesピアノを購入したことになる。  


 おかげで、私の書斎は2台のRhodesピアノに占領されている。Rhodes以外にもデジタルオルガン1台(これは、Rhodesに重ねて置いてある)と9台のギターと4台のギターアンプが置いてあり、ステレオと、文机と、ハンガーに掛かった服と、山積みの本と、約2000枚のCDがひしめいている。その占領下で、私は細々と零細企業のようにRhodesの修理を続けている。占領下の物資不足、食糧調達すらおぼつかない状況で、着物を質に出したり、闇市で物々交換等を行ったりして、Rhodesのパーツを手に入れ修理している。 


 私はかつてギターのメーカーに勤めていたりしたもんだから、ギターの修理を趣味でやったりするのだが、鍵盤楽器の修理となると専門外である(まあ、商売はピアノ屋なのだけれど)。ギターは弦が6本張ってある木の箱のようなものだから、それほど面倒なことはないのだが(いや、そんなこともないか)鍵盤楽器は、ピアノなら鍵盤が88個、私の修理しているRhodesピアノは73鍵だから、単純な話、音を出す機構が73セット付いており、12倍ぐらい面倒である。  


 エレキギターの音の出る仕組みは、指ではじいた弦の振動をマイク(一般的にはピックアップと呼ばれている)が拾い、電気信号化され、その信号をアンプで増幅し、スピーカーから出力される。Rhodesピアノも原理はエレキギターと似ていて、鍵盤がハンマーを突き上げ、ハンマーがトーンジェネレーター(タイン)という鉄の棒を叩き、震わせて、その振動をピックアップが拾い、アンプで増幅しスピーカーから出力される。エレキギターとRhodesピアノは震えるのが、弦なのか鉄の棒なのかの違いはあれども、それ以外の音の出る原理はほぼ一緒である。だから、アンプもギターアンプが代用できる。  


 Rhodesピアノは楽器の分類上はエレクトリックピアノに属す。エレクトリックピアノは所謂電子ピアノ(デジタルピアノ)とは別物である。デジタルピアノはデバイス上に記録されたソフトウェア音源(サンプリング音源等)が入っているのに対し、エレクトリックピアノは弦やら棒やらを叩いたり、引っ掻いたりして音を鳴らし、それをピックアップで拾っている。だから、音が出る部分は、なんとかかんとかギターと同じ要領で修理できる。鍵盤のアクションの部分はともかくとして。


 今回、購入したRhodes Suitcaseは100wアンプとスピーカー4発一体型のエレクトリックピアノである。その前に買ったRhodesはStageというモデルで、アンプ・スピーカーは外付けで使うモデルだから、壊れるところも少なかった。ところが、今度のやつはスピーカー、アンプ一体のため、今回のやつは手間がかかるのだ。結婚に例えると、Rhodes Stageとの新生活は配偶者と二人の所帯を築く新婚生活なのに対して、Rhodes Suitcaseは連れ子が2~3人いる新婚生活のよう。家に迎え入れた途端、大わらわである。 


 私の配偶者となったRhodes Suitcaseは、鍵盤部分(妻)はそこそこ調子いいのだが、アンプ部分(連れ子)は少し手がかかりそうだった。幸いに音はきちんと出たので命に別状はないのだが、電源スイッチを入れると、スイッチがスパークするのだ。スイッチから雷のような火花が指の方へ向けて放たれる。恐ろしい。とんだ不良娘が配偶者についてきたもんだ。

 音は出るので、しばらくはそのまま使おうかと思っていたのだけれど、やっぱり怖い。感電死するかもしれない。これは、私の命にかかわる問題ではないか。山田かまちはエレキギターを練習していて感電死したが、このままでは私もエレクトリックピアノを練習中に感電死するのも時間の問題だ。 

 

 これはいかん。これは、絶対にいかん。 

 直ちになんとかせねば。


 ということで、すぐに闇市で交換用のスイッチを探すことにした。79年製のRhodesピアノのスイッチなんて、おいそれと売っているものではない。とにかく、はじめに馴染みの店に電話をかけてみた。  


プルプルプル……、

 私:「アァ、ドウモ〜、オセワになってる佐々木です〜。」 
お店:「あっ、どうもお世話になっております。」
私:「アッ、ドウモ〜、オセワになっております〜。ドウデスカ〜最近? なんかイイの入りました?」


 なんてお互いにとりあえず「お世話になっている」ことを確認しあい、ここからが本題である。


 「あの〜、1979年製Rhodes Suitcase Mark 1の電源スイッチなんですが、取り扱いあります〜? スパークするんですよ、電源つけると毎回。困ったもんなんですよ。」 


 と尋ねると、あるというではないか! さすがは楽器のメッカ、東京 御茶ノ水である。電話一発で見つかった。インターネット一切見ないで見つかった。こちらからは、何の働きかけもなく、役所の偉い人への根回しや、プレス対応や、事務所の許可を取らないでも見つかった。デタラメな英語、スペイン語、ロシア語、タイ語、中国語を総動員しなくても見つかった。Google翻訳のお世話にならずに見つかった。オマワリさんのお手を煩わせることなく見つかった。「お世話になっている」ことの確認だけで見つかった。

 

 早速、スイッチを付け替えてみた。オリジナルの部品と寸分違わぬスイッチである。ネオン管入りの、はじめっから油がじわじわ染み出してくるスイッチである。今のLED入りのスイッチと違って、パイロットランプにフリッカーが入るスイッチである。


 スイッチを買うついでに、店先まで顔を出して、不足していた部品を買い足した。 


 そのあと、ヴォイシングの調整をやり直し、やっとまあまあマトモな音が出るようになったRhodes Suitcaseである。まだまだ、不安定なところや、トーンジェネレーターが古くなっていて音が小さくなっているところはあるのだけれど、とにかく練習だけはできそうだ。


 練習にたどり着くまで、早2週間! 

 さあ、楽器は揃った。2台揃った。 

 これから、練習を始めるところである。 

 はて、何か弾きたいような曲はあったかしら。 


 Rhodesへの旅は続く。

 Ryoshiro Sasaki 

0コメント

  • 1000 / 1000