テキサス自宅待機日記④(3月30日〜4月3日)(ヨシオ カサヤカ)

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3月30日(月)

 朝から雨。食料品配達サービス「インスタカート」のドライバーがストライキ予定というニュースを目にする。午後、Zoomを使ったオンライン授業の第1回目。Grief &Lossというコースで、地元のグリーフケアセンターで働いている先生が受け持っている。前から使っていた、格安クロームブックPCは年明けからだんだん調子が悪くなってしまっため、春学期の授業の課題は、これまで主に大学の図書館のPCか、自宅では夫が使っている自作デスクトップを借りて作業していた。授業の時間になりZoomにログインしたあとで、自宅のデスクトップにはウェブカメラがついてないことに初めて気づく。カメラがついているクロームブックはすぐ目の前にあるのに使えない。「いつか直そう」と思って放置していると、本当に必要なときに使えず痛い目にあう。しょうがないのでカメラなしで授業に参加する。クラスのほとんどの人はウェブカメラを通して顔が見えるが、私と他数人は真っ黒な画面である。授業の前半、最近の状況について思うところをみんなで自由に話し合う。普段の授業のように、話したい人は手をあげて自分の意見を言う。ビデオがないと、話したい意思が伝えられず会話にできない。(チャット機能はあるけど、音声で会話が進んでいるときはなかなかチャットで話すタイミングが掴めない。)

 授業後半、グループワークになりいよいよカメラが必要になってきたので、いったんデスクトップのZoomをログアウトして、携帯から入り直す。結局、今日の授業はあまり集中できなかった。ただ、クラスの出席者の一人が、「飼っていた犬が先週死んだ。個人の生活にある悲しみは、社会で大きな出来事があるからといって一旦休止になってくれない」と言っていたのが心に残った。

 夜、犬の散歩に外に出ると、私のアパートの近くに車が止まり、降りてきた初老の男性がビニール袋に入った包みを上階の住人に届けていた。きっと、GrabhubやDoorDashといった飲食店からの宅配サービスの人だろう。


3月31日(火)

 昨日とうってかわって快晴。しかも湿気がなく爽やかだ。あまりにも良い天気なので、普段は見なかったことにしている、ベランダに溜まった落ち葉を掃除するモチベーションまで出てくる。そのあと、近所のスーパーに歩いて買い物に行く。このスーパーでは、店内の密度を最小限に保つため、客に店の前で並んでもらい、一人ひとり店員による手の消毒を受けてから、順番に入る方式なっていた。店内に入るまでに10分くらいかかった。前後の客と距離をあけるため、ちゃんと地面にもテープで印がしてある。。

 この印の場所に並ばないといけない。列に並ぶ客のために、店員さんの1人が、希望者には無料で500mペットボトルの水を配り、入店、買い物する際の注意事項を大きな声で説明する。お店に入ると、一時期は売り切れだった缶詰などがぎっしり棚につまっている。そして、店内の陳列も以前と少し変わっていた。COVID-19の問題が起きるまで試食コーナーだった場所は、今はサボテンなどの観葉植物の棚になっていた。夕方、NYにあるアマゾン倉庫の従業員が、倉庫内を消毒するよう抗議し解雇されたニュースを見た。


4月1日(水)

 今日も良い天気だった。午後、オンライン授業を受ける。夜11時過ぎ、既に夜の散歩に行ったのにも関わらず、先週のように犬が落ち着かないので、もう一度外に連れ出す。普通は、朝と夜の散歩に行けば大人しく寝るのだが、こういうときがたまにある。先週連れ出したときと同じく、またスプリンクラーが作動していて、水を浴びてしまった。先週よりも1時間ほど遅かったのだが、もしかしたら犬は室内にいても、建物の外にあるスプリンクラーが動き出すのを匂いで察知するもしれない。だからその時間になると興奮して外に出たくなるのだろうかと思った。それとも単なる偶然か。


4月2日(木)

 今日は雨だった。邦人住民が情報交換用に使っているフェイスブックグループで、道を歩いていたアジア系住民が、車上から差別的な言葉を投げつけられる事件がこのエリアでも最近起きている、というニュース記事が投稿されていた。私自身はまだ経験をしたことがなく、この地域は大丈夫かと勝手な期待をしていたけど、そうでもないようだ。既に報道されているように、COVID-19が広まり始めた昨年暮れから、各地でアジア系の人々への嫌がらせが発生している。2001年9月のNY同時多発テロをきっかけに、イスラム教徒とみなされた人たちがヘイトクライムの被害に多くあったのと同じで、とんだとばっちりである。

(※ムスリムをターゲットにしたヘイトクライムの件数は2001年以降にいったん下降したもの、2016年に再び急上昇している。)


 2017年にテキサス州南部の教会で26人射殺した犯人も、2018年にラスベガスで58人を射殺した犯人も、2019年にテキサス州エルパソのスーパーマーケットで30人以上を殺した犯人も、全て白人男性だが、こうした事件のあとに、白人男性が路上で嫌がらせを受けたというニュースは全く聞かない。納得がいかない。さらに納得がいかないのは、通り魔的な嫌がらせをしてくる奴は、だいたい自分より弱そうな人間を狙っているということだ。アジア系であっても、マ・ドンソクのように体格の良い男性だったら、街中でいきなり嫌な目に合う確率は、それ以外の人より格段に少ないだろう。

 米国でパンデミックが大々的なニュースになるよりも前のことだが、バイト先に向かう途中のバスで初老のアジア系男性に失礼な振る舞いをしている白人男性を見たことがある。バスの車内は、通路を挟んで左右にそれぞれ2人がけ席が並んでいるが、大体いつもこの時間帯は空いており、見知らぬ乗客同士で2人席に詰めなくても、車内の全員に席がある状況だった。スーパーマーケットのロゴ入りエコバックを抱えたアジア系の男性は、バスの真ん中にある、乗降用ドアの近くの2人がけ席に一人で座っていた。私は、彼の斜め前ぐらいの席に座った。最初は特に変わったことはなかったのだが、バスが動き出す頃、少し後方の席にいた30代くらいの白人男性が、このアジア系男性の近くまできて、わざと体をねじ込むような感じで、彼の隣のシートに座った。わざわざ元いた席から移動して赤の他人の隣に座る行為がまず謎だったが、さらに、普通ならあるべき「すいません」とか「ここ、座っていいですか?」という声かけもないことに驚いた。彼のパーソナルスペースを侵食したあとで、“Oh, I don't see you." と笑いながら言っただけだった。白人男性の連れらしき、近くに座っていた男女2人もにやにや笑っているだけである。この男は、飲酒した後なのか顔が赤かったが、いくら酔ってるにしても目の前の人間が見えないわけはない。アジア系の男性は、半分くらい自分にかぶさるような形で座ってきたこの白人男性に対して、特に何か文句を言ったり、別の席に移動することもなく、始終紳士的に対応していた。”Where are you from?”と聞いてくる相手に対し、”I'm from Dallas.”(ダラス=テキサス州の都市)と丁寧に答えたりしている。

 私も含め、他の乗客たちは、特にこの白人男性に対して何か注意するでもなく、終始目線を各自のスマートフォンを落としていた。私は「そんな失礼な奴相手にしなくていいですよ」とアジア系の紳士に声をかけたい気持ちと、でも迷惑野郎がこっちに来たら嫌だから、絡まれてる彼には申し訳ないけどとりあえず黙ってやり過ごそうという気持ちがないまぜになっていた。そして結局、後者がまさっていたため、何も言わずに自分のバス停で降りた。このアジア系の男性も、同じ場所で降車した。降りたあと、すぐそこを歩く男性に向かって、私は、「さっきの、失礼な奴でしたね」とか「何もできなくてごめんなさい」とか、声をかけようかと思ったけど、躊躇している間に彼は信号を渡って先に行ってしまった。自分のふがいなさに落ち込んだ。

    

4月3日(金)

 州のウェブサイトで失業保険の申し込みをする。今日は、失業保険の申請者として自分のアカウントを作り、これまでの勤務期間や時給などの情報を入力するところまでだ。この情報が州政府に審査され受給資格の通知が来たら、今度は、毎週失業保険の支払い申請フォームを出さなくてはいけないらしい。

ヨシオ カサヤカ

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