チェコ編・2回目(兼桝綾)
[2日目の夜]
チェコについて2日目の夜に、暴力的な眠気におそわれた。夕食までは元気だったのだ。我々(凧ちゃん、海ちゃん、海ちゃんの父親、私の一行)は、AちゃんOさん夫妻と別れ、プラハ駅ちかくのV Kolkovne Restaurantへ入り、手羽肉、パスタ、羊のチーズのサラダ、タタラークを注文した。羊のチーズ、美味しい。タタラーク、超美味しい。新鮮な牛肉をたたき、そこにスパイスや刻んだ野菜などが混ぜてある。店ごとの混ぜ物の違いを楽しむのがよい、と海ちゃんは言う。揚げられた固いパンに生のにんにくを擦り付け、パンの上にたっぷりと肉をのせて食べる。この旅では結局、タタラークを三度食べることになる。食事の後、一度海ちゃんと海ちゃんの父親の宿泊先のアパートに立ち寄る。海ちゃんは涼しげな器に、街で買ったプラムとベリーを入れてもてなしてくれる。暑さの中、冷えた果物がありがたかった。このあたりから猛烈に眠くなる。今更の時差ボケである。うとうとしながら、凧ちゃんと海ちゃんにしがみついて街中へ。広場で、女性二人が歌っている。片方がギター、片方はタンバリンを演奏しながら度々ハモっている。チェコの「ゆず」じゃん、と凧ちゃんがつぶやいて、動画を撮っていた。我々はBlack Light Theatre METOROでパントマイムのショーを見る予定だった。劇場へ向かうためにカレル橋をわたるが、夕焼けが美しく、私は今にも眠りそうで、夢現であった。ショーの途中は凧ちゃんにもたれかかって眠っていた。終演後、海ちゃんがパフォーマーたちと記念写真を一緒に撮りたいという。前の席でよく眠っていたので大変後ろめたく、私だけすこし離れて写った。
[3日目(チェスキークルムロフ) ]
凧ちゃんとチェスキークルムロフへ観光に行く。プラハからでている高速バスを、Oさんが事前に予約してくれていた。迷いながら、片言で駅の案内所で尋ねてたどりついたバスセンターでバスを見て、なるほどチェコの鳩バスだな、と思う。近くの売店でサンドイッチとコーラを買って乗り込み、 3時間程うとうとする。チェコの鳩バスにも、テレビと充電用コンセントがついていた。
チェスキークルムロフは遠くからみるとおもちゃのような、可愛く丁寧な街である。街には川が流れていて、カヤックを楽しむひとたちがいる。私と凧ちゃんはでたらめに歩くものだから、「観光ルート」からどんどんはずれていってしまう。私たちは保養所のような、合宿所のような場所をみつける。テニスコートと、食堂と、コテージがある。プラハに住む人たちが、避暑旅行を兼ねて、ここにテニスをしにくるんじゃなかろうか。食堂に入り、カツレツとスプライトを頼む。異国で夏休み気分である。その後も川べりにねそべったり、落ちている木の実を踏つぶしたり、さんざん郊外を楽しんだのち、「観光ルート」に戻る。広場から橋を渡り、チェスキークルムロフ城へ。城の外壁にはだまし絵がつかわれている。16世紀のむかしから、城を囲う堀には熊が飼われているとのこと、城内地図にも熊のマークが記されているが、暑すぎるのかまったく出てこなかった。増改築を繰り返した結果、ゴシック・バロック・ルネサンス、と建築様式が混在しまくっている。城の地下牢だった部分は薄暗く、めちゃくちゃ怖い。凧ちゃんがずんずん進んでいってしまうので、これが映画だったら、私は序盤ではぐれ、呪われた姿になって再登場するだろうなと思った。
帰りのバスではぐっすり眠って、夜にアパートについたが、この日も我々はアパートの鍵をうまくあけられず、通りがかった青年に助けてもらう。青年は「イリュージョン!」と言っておどけて鍵をあけてくれる。凧ちゃんは照れ臭そうに、「ジャパニーズには難しい」とか言っていた。まったく日本人には難しい鍵である。
[4日目(A子ちゃん結婚式)]
12 時に チェコ在住の友人Aちゃん宅の最寄駅に集まって、Aちゃんと、チェコ人のOさんの結婚式である。日本から来たAちゃんファミリーにご挨拶する。ブルノから来たOさんのご家族もいる。チェコの結婚式は、市役所で行われる。誓いの言葉を、日本語が堪能な、AちゃんOさんのお友達が通訳する。ウエディングドレス姿のAちゃんを筆頭に、一行はそのまま急行に乗って、披露宴もとい結婚パーティーが行われる、プラハのグランドホテルボヘミアへ。グランドホテルボヘミアのホールはネオバロック様式とのことで、心躍る豪華さである。シャンパンと、ランチに伝統料理のグラーシュが振舞われる。肉が柔らかくて美味しい。クネドリーキというもちもちしたパンがつく。チェコの結婚パーティーは終わり時間が決まっている訳ではなく、だらだらとつづくとのこと。なるほどテーブルの上に目安のタイムテーブルがあるが、18 時すぎからは元気の良い文字でフリータイム!と書いてある。テーブルの上には、新郎新婦からの粋なプレゼント、ゲストそれぞれのキャラクターからイメージした動物の名前が、日本語とチェコ語で記された扇子が置いてある。私は「物書きの猫」。屋号にしたい。凧ちゃんは「陽気な蛙」海ちゃんは「好奇心旺盛な鶏」。Aちゃんの友人の、チェコ在住の日本人女性達が多くいる。また彼女らのパートナーもいる。パーティーには四つの国籍の友人達が招かれているという。日本人対抗チェコクイズ、チェコ人対抗日本クイズは多いにもりあがった。良い結婚パーティーではいつも思うことだけれど、それぞれの人生があるなあ、と思う。AちゃんOさんの采配で、ここに、家族友人知人が集まって、それぞれがどういう風に生きてきて、どういう縁でいまここにいるのかということを聞けば、何日も何日も飽きないだろう、でもパーティーの時間は、そうするには短すぎて、とっても勿体ない。私は今でも、市役所からプラハへ移動する時に、日本から来たAちゃんのお母さんと、Oさんのお母さんが、それぞれの家族の一員である赤ん坊の乗ったベビーカーを押しながら、おしゃべりしている光景を思い出す。私たちは別々の場所で、ひとりひとりで生まれるが、こうして集まったり、並んで歩いたりするのだ。
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